オレンジキッズケアラボのはじまり

オレンジキッズケアラボを立ち上げるきっかけになったのは・・・


しんすけくんとの出会い
 2012年。在宅医療専門のクリニックで訪問診療を行っていた。そこで出会ったのが、特別支援学校高等部3年生のしんすけくんだった。診察中、卒業後の進路についてお母さんに尋ねたことがある。「卒業したらどこで何をされるんですか?」。進学や就職を機に親元を離れ、一人暮らしやアルバイトを始める。新たな挑戦を前に、ワクワクとドキドキが入り混じるような感覚。それが高校卒業における私たちの中の”あたりまえ〟だった。

 お母さんは少し笑いながら、こう教えてくれた。「え?先生そんなことも知らないんですか。卒業したら行き先なんてないです。考えられる選択肢は二つ。一つは、私と二人で自宅に引きこもって暮らすこと。もう一つは、遠くの病院にこの子を入院させて、家族が離れ離れで暮らすこと。それ以外の過ごし方なんてない。先生、どっちの過ごし方が良いと思います?」

 地域には居場所がない。しんすけくんのような※重症心身障害児(者)にとってはそれが”あたりまえ〟だった。閉ざされた未来を目の当たりにして返す言葉が見つからないまま、私たちは家を後にした。
※重症心身障害児(者)とは…重度の肢体不自由と重度の知的障害とが重複した状態にある子ども(成人)のこと。

 何かもっと別の選択肢があるのではないか。閉ざされた状況を少しでも変えたいと必死に行動した。地域の施設へ見学に行き、スタッフを一人貸すので彼を受け入れてくれないかと頼んだこともあった。しかし、制度の壁などが立ちはだかり、受け入れてくれる施設はひとつも見つからなかった。解決策が見出せないまま、卒業が近づいていた。

一緒に社会を変えたい
 私たちが最終的に出した答えは、彼のために自分たちで地域の中に居場所をつくることだった。「オレンジキッズケアラボ」が誕生した瞬間である。「ラボ」という言葉には、彼と彼の家族とともに新たな挑戦をし、そのプロセスを社会に発信することで、一緒に新しい”あたりまえ〟を作っていくとの思いを込めた。

 障害当事者と支援者が、利用する / されるという関係を超えて、互いの夢や未来に向かって一緒に行動していく。【こたえていく、かなえていく】。ケアラボの合言葉になった。

 しんすけくんと一緒に踏み出した一歩は今、たくさんの子どもたちとともに力強さを増している。きっとこれからも地域にたくさんの笑顔と、そして新しい”あたりまえ〟を生み出し続けていくに違いない。

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